太陽と雪
「まだ関係進んでないみたいね」

「何とかしてあげたいけどな。

俺らみたいな年下が口出すことじゃなくて、本人たちの問題だろうし。

もどかしいけど、傍から見守ってやるだけにしようか」


「そうね」


そんなことを話していると、一度ごとに間を空けた、控えめなノック音が室内に響いた。

いかにも会話が途切れるのを待っていたようなそのノックの仕方は、高沢のものだった。


「どうした?
高沢」



「どうやら、お姉さま方はご入浴を済まされたようですので、椎菜さまもいかがかと……」


そういえば、もうそんな時間か。



遠慮がちに部屋に入ってくる高沢をよそに大事な彼女に問いかける。


「俺は部屋に戻って部屋にあるシャワー浴びるからさ。

椎菜は遠慮することなく貸し切り状態で大浴場の方を使ったらいいよ」

「え……」


「え、じゃないの。

俺はシャワーでいいんだよ。

椎菜は女なんだからさ、身体冷やしたらダメだろーが。

嫁入り前の身体、大事にしろよ」



頼むから、「一緒に入ろう」とか言うなよ?

今度こそ、理性吹っ飛ぶ。

宝月家のジャグジー付きの風呂を使うことを渋る俺の婚約者を説得する。


「……麗眞がそこまで言うなら、行く。

……寂しいからさ、麗眞がシャワー浴び終わったらでいいから。

その……バスルームの近く居て……?

じゃないと……この家とてつもなく広いから、迷っちゃいそうで」


「分かったよ。
そんな可愛くお願いされたら……聞いてあげるしかないでしょ?

ホント、可愛い」



優しく額にキスを落としてやる。

高沢に連れられて先に部屋を出た椎菜に続いてオレも部屋を出た。


オートロックがかかったことを確認すると、オレも自分の部屋に向かった。



いつも、椎菜と過ごすときはここと決めている、黒を基調とした大人っぽい部屋。

つい先日、つい椎菜の色っぽさに負けて、我慢できずに、
大人な一夜を過ごしてしまった部屋でもある。

そこではなく、隣の部屋のドアを開ける。

そこもオレの部屋である。

高校の頃の友達などを呼ぶときにはこちらの部屋を使う。

ひとたび部屋に足を踏み入れると、人感センサーが反応して部屋に明りがともる。

どこぞのホテルの照明のような、柔らかい光が特徴だ。

そこに、上質な木のみを使って作られた家具が並ぶ。

TV台やベッドなどがその代表だ。


その脇を抜けて、シャワールームに向かう。

服と一緒に邪な感情も脱ぎ捨てたい、という心理が表れているのだろうか、籠に乱暴にそれらを放り込む。

椎菜のことも、なるべく考えないように、熱いシャワーを頭から浴びる。

彼女の純情発言を思い出してしまうと、欲望が溢れて止まらなくなると思ったから。

可愛すぎるだろ、俺の婚約者。


シャワーを浴び終えて脱衣所に上がると、丁寧に畳まれたスウェットと下着が用意されていた。

……相沢によるものだ。

いつの間に来たんだ?
手早くそれらを身に着けてそこから出る。


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