太陽と雪
ちょうどその時、規則正しいノックの音が外から響いた。


「失礼いたします、麗眞坊ちゃま。

お夕食をお持ち致しました」


相沢の声である。


「美崎様から麗眞坊ちゃまがこちらにいらっしゃると伺ったものですから」


「相変わらず、気が利くな。
さすが相沢」


「恐れいります」


恭しいお辞儀と失礼いたしますという言葉と共に部屋を出て行った相沢。

今日のメニューは豆もやしのサラダにエビのチリソース煮込み、揚げ出し豆腐の牛肉あんかけ、餃子のスープというように、どうやら中華らしかった。


羨ましそうに、料理を見つめる椎菜がそこにいた。


「ん?どした?
椎菜も食べる?」


「ううん。いいの。
ただ、全部執事さんに任せてるでしょ?

普通の家みたいにさ、結婚しても奥さんが手料理作って待ってるなんてこと、ないのかな、って……」


「ま、そこは……ゆっくり決めていけばいいと思うな。

とりあえず、その…椎菜の両親に飲まされた例のクスリの効果を消すものを早く開発してくれないとな……

結婚式どころじゃないし」


露骨に傷ついた顔をした椎菜に、俺は慌てて謝った。

そういえば、美崎さんに念を押して言われていたんだった。

精神的にショックを受けている、と。

気にしてないよ、と微笑んでくれた。

しかし、その口角は、無理矢理上げられたように見える。


無理、してるんだな……椎菜。


「早く破談なんて話も撤回させてやるからな、椎菜。

早く椎菜と籍入れたい」


それだけを彼女に告げて、しばらくの間食事に集中した。


「高沢、内線で相沢に言っておいて。

わざわざ美味しい食事運んできてくれてありがとうって」


「かしこまりました」



「早く俺としても行きたいんだよ、イタリア。
もちろん、椎菜と2人で、だよ」


「麗眞のことだから、下見ついでに観光したいんでしょ?

あ、それとも観光でもなくてホテルで私とイチャイチャしたい、の方かな?」

「バレたか……」

「んー?
麗眞のことなら何でも分かるの。
婚約者だもん!

私も麗眞と一晩中イチャイチャしたい。

旅行なんて、高校卒業前に麗眞と2人で京都行って以来だから、楽しみ!

あの旅館のとき以上に、極上な甘い時間過ごしたいな」

可愛いことを言ってくれるな、俺の婚約者は。

こんな状況じゃなかったら、間違いなく押し倒して行為に及んでいるところだ。

現に、椎菜の言葉で高校卒業前に2人で行った京都の旅館。

別々の大浴場には入ってきたが、それでは飽き足らず、部屋にある露天風呂でひたすらイチャついていた。

思い出すと、下半身が制御不能になってしまう。

頑張って抑えないとな……

そんな感じでしばらくイチャついていると、ふいに高沢が部屋の外に出て行った。


やっぱり、まだ辛いのか。
俺らの様子見てるの。



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