太陽と雪
「やっぱり、藤原なのかな……
転んだ私を助けてくれたの」


無事に着替えを終えて、襟元に黒い丸襟の付いた白レースワンピに身を包んだ私。

だけど、その服装とは似つかわしくない、沈んだ顔をした自分と鏡越しに目が合った。


「ホントに……藤原……なんだよね?
椎菜ちゃんの言う通り」


「はい。
おそらくは。

私がまだ麗眞のお家に居たときに拝見した姿と変わってなかったですから。

体の線は少し細くなった気がしますけど」

部屋に戻る道中も、椎菜ちゃんとそんな会話を繰り返していた。

余計に気分が沈むことは分かっていたけど、それでも。

藤原に関する手がかりは、掴んでおいたほうがいいと思ったから。


「まあ、うろ覚えの記憶ですからね。
あんまり当てにしないでください」


いや、そんなこと言われたら、余計に気になるでしょ?


何もかも……私の執事だった頃と同じ。

唯一違うのは、彼が美崎の執事だってことだけ。


……ママとパパに、聞いたことがある。

ある朝、パパの書斎に藤原の辞表が置いてあったんだって。


私の執事を辞めてまで、美崎の執事になった理由って何なの……?


「もし、仮に藤原だとしたならば……よ?

何で藤原が美崎の執事なんかしているの?
藤原は……私の執事……」



「彩さん。
単刀直入に言います。

好き……ですよね?

藤原さんのこと。

いなくなった今でも」


私の声を遮って、そう言葉をぶつけてきたのは椎菜ちゃんだ。

鋭いのは……獣医師だから?

獣医師は、ペットだけじゃなくて飼い主とも心を通わせるのが上手だもの。


「図星のようですね?

ふふ。

でも最近……藤原さんだけじゃなくて、矢吹さんのことも気になっているんですよね」


椎菜ちゃんはどうしてこうも、人の心を読むのが上手いのだろう。


「混乱させたらごめんなさい。

……でも。

私もよく分かるの。

矢吹さんを見ているときの彩さんの目、私が麗眞を見る目と全く同じなんですもの」


「そっか」

恋愛経験豊富な彼女が言うのだ。

素直に聞くことにする。

「ありがと、椎菜ちゃん」

「どういたしまして。

まあ、藤原さんのことは、麗眞もいるんだし、

じっくり調査してもらったらいいと思いますよ。

私は、何も尽力出来ないのが悔しいですが」


そう言った後、椎菜ちゃんが小さな声で呟いた。

……美崎さんの思い通りになんか絶対させない。

って。


美崎と椎菜ちゃん……何か関係があるの?
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