あの子の好きな子

学園祭事件




【学園祭事件】





広瀬くんと一緒にぼうっとする。
私があれだけ楽しみにしていた学園祭当日、広瀬くんは出欠取りの時間になっても現れなかった。

「広瀬は、欠席か」

先生が当然のように言った。一度も広瀬くんの名前を呼ぶことなくそう言ったから、きちんと連絡が入っての欠席なんだろうと思った。広瀬くんと教室以外の場所で、二人きりで、のんびりできる。私がこの日をどれだけ楽しみにしていたか、先生に小一時間ほど語ってやりたかった。

「森崎。森崎、いないのか」
「え、あ、はい」
「寝不足か。眠そうだなあ」

だって、楽しみで眠れなかったんだもん。そう言いたかった。うちのクラスの担任は理科教師で、若いわりに冴えない雰囲気で全く人気がない。クラス担任発表の時のこのクラスのリアクションは寂しいもので可哀想なくらいだったけど、この先生は生徒の評判なんてこれっぽっちも気にしていなさそうな感じがする。どこか飄々としていて、変に熱血漢の先生よりは私はまだ好きだった。

「篠田先生!」

出欠が終わって先生が出て行ったのを追いかけて声をかけた。みんなの前で聞く勇気はなかったけど、どうしても気になったから。篠田先生なら私の言動なんてどうとも思わない。

「あの、広瀬くん、どうしてお休みなんですか」
「ああ、広瀬?風邪だとかって、体調崩したそうだな」

風邪・・・。
広瀬くんはやる気がなさそうな割に出席率はとてもいい。学校をさぼったりするような人ではない。でも性格的には仮病を使って休むというのはいかにもしそうではあるからわからない。

「あの・・・熱はあるんですか?」
「さあ、そこまでは」
「電話は本人ですか?」
「どうだろうなあ、先生も報告聞いただけだから。ごめんな」
「・・・そうですか」
「森崎、広瀬と仲いいんだなあ」
「はあ、まあ。わかりました、すみません」

大した情報は得られなかった。もしかしたら今頃高熱で苦しんでいるのかもしれないし、もしかしたら私がどんなに楽しみにしていたかも知らないでのんきにさぼっているだけかもしれない。どっちでも嫌だけど、元気でいるならその方がいい。

そうだ、メールしてみよう。





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