まさかの夢落ちで目が覚めた主さまは、すっかり熱が下がって元気を取り戻した息吹から肩を揺すられていた。


「主しゃま、しーしー行きたい」


「…1人で行け」


「やだ、一緒に来てー」


厠は庭にあり、皆と一緒に居る時の夜は好きだが、しんと静まり返っている夜の嫌いな息吹がずっと肩を揺すって来るので仕方なく起き上がる。


「…最悪な夢見た…」


「夢?どんな夢?」


手を繋いで歩きながら見上げて来る息吹をじっと見つめた。


…幼女すぎてこれっぽっちも食指は動かないのだが…

夢の中の息吹は美しすぎて、もしあんな風に成長したらどうしよう、と真剣に考えてしまい、額を押さえた。


「なんでもない。ほら、行って来い」


厠の前で手を離して、戸を開けて中へ消えて行くと、昇り始めた太陽を見上げる。


「…美しかったな」


「主しゃま?何がー?」


用を済ませて井戸水を汲んで手を洗うと、主さまに抱っこしてもらいながら寝室へと戻って団扇で顔を仰いでもらった。


「お前は知らなくていい」


「主しゃまの意地悪」


頬を膨らませながらもきゅっと抱き着いてくる息吹の背中を撫でてやり、またうとうととし始めてすぐに寝息が聞こえて幸せそうに眠る息吹の頬を引っ張って呟いた。


「美味くなりすぎて食いたくなくなるほどの美女にお前がなるのか?……ないない。それはない」


…まだちんちくりんだ。

確かに人間の子供の基準から言わせれば飛び抜けて可愛い部類ではあるが、どうしても6年後の息吹を想像できなかった。


「…眠れない…」


――夢の中に出て来た成長した息吹はあまりにも美しく、それが自分の願望だったとしたら、と考えると余計に眠れなくなって、そっと床を抜け出すと縁側に出て煙管を噛んだ。


「おや、主さま?早いですねえ」


山姫が息吹の様子を見に早朝現れて傍らに座る。


「熱は下がった。今日はゆっくり眠らせてやれ」


「はい。…で?主さまの顔はどうして赤いんですかねえ?」


「…はあ?赤くなんかない。ちっ、余計な詮索はするな」


「はいはい」


余計に赤くなる。

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