主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
その日、主さまは秘密裏に幽玄町から絵師を呼び出した。
…若い絵師は緊張しながら主さまと2人きり…
いや、床には息吹が眠っていたのだが、密室で主さまに見つめられて硬直していた。
「お前に描いてもらいたい絵がある。特徴を言うからその女の絵を描け」
「女…ですか?」
「…女だからなんだ?」
「い、いえ」
主さまの美貌が一心に自分だけを見ているので筆を持つ手が震えたが、その特徴を聞きながら紙に筆を走らせる。
「髪は艶やかな黒で長く、色白で目元は穏やかでいて大きい。身体は線が細いが…意外に胸はある。腰は細くて脚はすらりと長い。口元は、男なら誰もが奪いたくなるような可憐な感じだ」
一気にまくし立てて男をぽかんとさせると、いらついたように顎で髪を指した。
「息吹が起きるだろうが。早く描け」
「は、はい」
時々主さまに描いた絵を見せて確認を取りつつも、どんどん仕上がって行く絵に夢の中に出て来た成長した息吹が重なり、口元がにやけた。
「そうだ、そんな感じだ」
唇には紅が薄く引かれ、穏やかに微笑む絵の中の息吹は…美しかった。
「こちらは…主さまの奥様で?」
「…余計な詮索はするな。このこと誰にも言うなよ。言えばお前とお前の家族も食ってやるからな」
「ひぃっ、は、はい!」
大金を握らせて逃げるように帰って行き、息吹がころんと寝返りを打って目を擦り、膝に触れてきた。
「…主しゃま?」
「もう起きたのか?まだ寝てろ」
「お腹空いたー」
――主さまは時々女を食べる以外は食事を摂らない。
が、息吹がここに来て以来、“人間の食事”に付き合うようになっていて、それは面白かったので付き合ってやっていた。
「暑いからそうめんにしよう。山姫、居るか?」
息吹に見られないようにすぐに懐に絵を忍ばせると寝室を出て山姫を呼ぶ。
「おはようございます主さま」
「母しゃま、おはよー」
ぎゅうっと山姫に抱き着いた息吹を見つつ欠伸をしながら真上に昇った太陽を縁側から見上げた。
「今日も暑そうだな」
その暑さに慣れ始めていた。
…若い絵師は緊張しながら主さまと2人きり…
いや、床には息吹が眠っていたのだが、密室で主さまに見つめられて硬直していた。
「お前に描いてもらいたい絵がある。特徴を言うからその女の絵を描け」
「女…ですか?」
「…女だからなんだ?」
「い、いえ」
主さまの美貌が一心に自分だけを見ているので筆を持つ手が震えたが、その特徴を聞きながら紙に筆を走らせる。
「髪は艶やかな黒で長く、色白で目元は穏やかでいて大きい。身体は線が細いが…意外に胸はある。腰は細くて脚はすらりと長い。口元は、男なら誰もが奪いたくなるような可憐な感じだ」
一気にまくし立てて男をぽかんとさせると、いらついたように顎で髪を指した。
「息吹が起きるだろうが。早く描け」
「は、はい」
時々主さまに描いた絵を見せて確認を取りつつも、どんどん仕上がって行く絵に夢の中に出て来た成長した息吹が重なり、口元がにやけた。
「そうだ、そんな感じだ」
唇には紅が薄く引かれ、穏やかに微笑む絵の中の息吹は…美しかった。
「こちらは…主さまの奥様で?」
「…余計な詮索はするな。このこと誰にも言うなよ。言えばお前とお前の家族も食ってやるからな」
「ひぃっ、は、はい!」
大金を握らせて逃げるように帰って行き、息吹がころんと寝返りを打って目を擦り、膝に触れてきた。
「…主しゃま?」
「もう起きたのか?まだ寝てろ」
「お腹空いたー」
――主さまは時々女を食べる以外は食事を摂らない。
が、息吹がここに来て以来、“人間の食事”に付き合うようになっていて、それは面白かったので付き合ってやっていた。
「暑いからそうめんにしよう。山姫、居るか?」
息吹に見られないようにすぐに懐に絵を忍ばせると寝室を出て山姫を呼ぶ。
「おはようございます主さま」
「母しゃま、おはよー」
ぎゅうっと山姫に抱き着いた息吹を見つつ欠伸をしながら真上に昇った太陽を縁側から見上げた。
「今日も暑そうだな」
その暑さに慣れ始めていた。