桜ものがたり
「お屋敷の花は、ぼくが持つよ。

 姫には、ぼくの作った花束がお似合いだから」

 柾彦は、祐里の摘んだ秋桜と鋏を受け取り、一抱えになるくらいの秋桜を

摘み取った。

 祐里は、小さな花束を抱えて柾彦の仕事ぶりを微笑んで見つめていた。

「柾彦さま、お屋敷にお寄りくださいませ。

 奥さまはお留守でございますが紫乃さんの美味しいおやつをご一緒に

いかがでございますか」

 祐里は、一所懸命に秋桜を摘む柾彦にお礼がしたくて、お屋敷に誘った。

「紫乃さんのおやつは、絶品だもの。それでは、姫、お手をどうぞ」

 柾彦は、躊躇う祐里の手を取ってしあわせな気分で歩き出した。

 川原を上って桜橋を渡ったところで、祐里は、柾彦から手を離した。

「柾彦さま、どうぞ、お先にお歩きくださいませ」

 祐里は、男子より一歩下がって歩くという躾を受けていた。

「姫、遠慮せずに並んで歩こうよ。姫は、桜河家の姫なのだから」

 柾彦は、立ち止まって祐里を振り返って促した。

 家並みの続く道で、柾彦は、元気よく「こんにちは。秋桜をどうぞ」

と衆(みな)に挨拶をして秋桜を配った。

 祐里は、頬を赤らめて柾彦の横で衆(みな)に挨拶をした。
 
 衆(みな)は、柾彦の堂々とした明るい振る舞いに好感を持ち、

祐里とお似合いだと語り合った。
< 64 / 85 >

この作品をシェア

pagetop