神の森

誘惑


 祐里が旅立つと同時に、海外事業部の業績が伸びて、

光祐の仕事は、にわかに忙しくなった。

 父の啓祐から、海外事業部の経営を一任されている。


 祐里のことをこころの奥で心配しながらも、

山積された書類とかかってくる電話の応対で時間が過ぎていった。


 明日朝一番に発注する注文書に目を通して署名をすると、

光祐は、机上を片付けて、ふと窓の外に視線を向ける。


 社屋の明かりを受けて、桜の樹に張られた大きな蜘蛛の巣が銀色に鈍く

光っていた。


(夏になると蜘蛛の巣が多くなるな。明日、遠野に駆除を依頼しよう)

 光祐は、机上のメモ帳に『蜘蛛の巣』と書き記した。



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