受付レディは七変化。
3.チャイナ服のときめき
「あ、 麻綾 ちゃん おつかれー」
「・・・下の名前で呼ばないで下さい」
あろうことかその男は、ロビーに入った途端、ニコニコと受付に近づきながら大声で私の名前を呼ぶ。
しかも、親しい感じで。
私はここ数日で3回目くらいの、好奇の視線を浴びせられる。
「せ、先輩!私先輩のこと信じてたのにっ!!」
そして隣からは恨めしい目線。
「・・・重森さんが思っているようなことは、なにもないです」
そう言い切り、扱っていた書類の束をドンとカウンターへ落としながら、無理やり笑顔を作る。
「で、本日はどちらにアポイントメントですか?」
「あ、ちがうちがう、今日はこれ。」
そう言って、充永はカラフルなチラシを取り出した。
書かれていたのは、 充永グループの系列が出している大型ショッピングモールがオープンするというチラシだった。
「コレ、一応関係者限定の先行オープンなんだけど、よかったら2人も来ないかな、って」
「はい、行きま「私達より、上の人誘ったほうが良いかと思われますが」
重森から再度恨めしい目線を受けながら、私はまた書類整理へと戻る。
「もちろん、この開店に関わった人たちにはDM送ってるよ。というか、関わってるんだし全員参加だけど」
そう言ってニコニコ笑うが、言っていることは強制参加させてるという高圧的なセリフだ。
この無言の圧力で参加させて、オープンのショップで高い買い物をさせる魂胆なんだろうな・・・。
流石に得意先のオープン記念に呼ばれて、何も買わないわけにはいかない。
こういうところを見ると、したたかだと思うと同時に、お坊ちゃんの割に仕事が出来るな、と思う。

「特にほら、これ。若い女の子に来て欲しいから」
そう言って充永が指し示したチラシを、私と重森で除きこむと、そこには"コスプレパーティ&パレード"と書かれていた。
「コスプレするのは現地のスタッフだけど、参加もOKだから」
ね、と充永がこちらを向いてニコリと笑う。
会社にバレたら困るだろ!!と叫びたいところだったが、ぐっと飲み込んでにこっとわらう。
「に、日程が合えば参加させていただきますね」
「いやいや、来てよ。てか強制だから」
「はい!?」
思わず喧嘩腰になると、その男は私にぐっと顔を寄せて小声になる。
「ここで言いふらされたら困るでしょ」
「は?」
「毎週水曜日に怪しげな地下のクラブでセクシーなコスプレして酒のんで踊り狂ってますよ、なんて」
その言葉には明らかに、余計な悪意が入っている。酒のんで踊ってなんてない!!!と叫びたいが、それは
コスプレしていることを肯定しているようなものだ。
・・・会社にバレるのは困る。

「・・・この性悪男・・・」
「なんとでも! 俺的には日曜日に出勤なんて超つまんないんだから、来てよ。ね?」



< 6 / 10 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop