キスはおとなの呼吸のように【完】
5.戦いのはじまり
次の日も大上先輩のうしろにくっつき、一日じゅう営業にまわり歩いた。
前日の倉庫探しのぶんの遅れをとりもどさなければならない。

日暮れすぎに大上先輩と駅のホームで遅めの昼食をとった。
時刻は午後五時をまわったところ。

営業職の人間にとって唯一ゆっくりできるのは、一日ぶんの仕事が終わり、ひと呼吸おける帰りがけのホームのベンチだけしかない。

吹きさらしのホームのベンチは、きんと冷たい冬の空気と、人の発するわずかな熱がおかしな濃度で混ざりあって揺らぐことなく停滞していた。
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