さよなら、いつか。①―幕末新選組伝―
本当は遊園地とかに行って、楽しい思い出作りたかったのに。




ふん、と鼻をならして翼を睨む。




「ごめんな?俺ひとり喋りすぎたな。」




私の様子に気づいたのか、翼は慌てたように私を覗き込んでくる。




そして、いつものように頭をわしゃわしゃと撫でてくれた。




私は、この大きな手が大好き。




「いいよ、もう。」




私はこれに弱い。



さっきまでイラついていたのもどこかへ行ってしまった。



幼いころからどんなに怒ってもこれをされるとすぐに許しちゃうんだ。




「よしっ。」




翼は満足そうににこりと微笑んでくれた。




私を見つめる細めた瞳が優しくて胸がキュッとなる。





翼、また格好良くなった。




最近後輩がキャーなんて騒いでいたのも、納得出来る。




サラサラの黒髪は羨ましいくらいに綺麗だし、夜空を呑み込んだように輝く漆黒の目は呼吸を忘れるほど惹かれるものがあるし。




昔は私の方が大きかったのに、今じゃ手も届かないくらいに身長も高くなった。





「あず。」




変声期を過ぎたその声は妙に色っぽい。



昔はあんなに無邪気に高い声だったのに、いつのまにか男の人になってしまった。



あずみという私の名をあずと呼ぶのは幼なじみの彼だけ。




翼とは家が近くて、小さいころからよく一緒に遊んでいた。




その時からずっと翼は傍にいてくれて、高校2年生になった今でもその関係は崩れていない。




そんな私たちが面白いらしく、みんなは私と翼をくっつけようとしているらしく、今日もみんなにはめられて一緒に回っている。





「次はあずの行きたいところに行っていいよ。」




・・・悪い気はしないけど。




「じゃあっ!私ゆうえん・・・。」




「ただし、このお寺の中で!」




うう、それでもお寺は勘弁だ。



さっきからなにか胸騒ぎがするし。



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