女王様のため息
どうにか午後からの仕事に間に合うように会社に戻ると、一階のロビーの片隅に司がいた。

柱の影になる場所に体を預けて腕を組みながら立つ姿に気づいた私は、驚きと緊張、そしてもちろん嬉しさを抱えながら。

「どうしたの?」

少し早足で司の側に近づいた。

「あ、来客待ち?ロビーまでお迎えなんて、かなりのVIP?」

来客の予定がある場合、ロビーで先方を待つことも多いけれど、その場合、相手はとても重要な商談の相手だ。

今もどこか真剣な顔で立つ司からは、そんな重要な仕事が控えているのかと思うくらいに固い表情と雰囲気。

「……司?」

柱に預けていた体を私へと向けた司は、無言のままじっとその視線を落としてくる。

「どうしたの?」

会社ではその場の雰囲気を壊さずスムーズに仕事をすすめる事が社会人の基本だと、いつもそう言っている司だけど、今私に見せる様子は全く正反対。

どう見てもこの場の空気を重くしてしまう雰囲気を隠そうともしない表情のまま

「5分。遅刻しろ」

そう言って私の手首を掴んだ。

「は?ちょ、ちょっと、司?」

慌てる私の声に構うことなく、司は私をひきずるように引っ張って、ロビーの奥の部屋へと向かった。




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