蒼幻の天使~A Solitary Flower

蒼の序曲

人ゴミにまぎれてよく見えなかったけど、あれは確かにママの後ろ姿だった。

私が遊園地を出るのをやめ、ママの後を追ってたどりついた場所は、ミラーハウス。

なんでこんなとこに…?

中に入ったのか、わからないけど、ママは確かにこの辺りで消えていた。

ママ、どこ?

この間も様子がおかしかったママを思い出し、言い知れない不安に駆られる。

この辺りだけ、人の姿は全くなく、アトラクションからも遠く離れ、やけに静まり返っていた。

こんなとこに、ママがいるわけないか…。

そう思った瞬間、

突如、黒い手袋が目の前に現れたかと思うと、私の口を塞いだ。

「ん~!」

悲鳴を上げることもできず、私を押さえつけている人の顔を見ることもできないまま、私はミラーハウスへと引きずり込まれた。

ミラーハウスの中は真っ暗闇で、人の気配はまるでなく、私の不安を余計に掻き立てる。

怖い……!!

一体どうする気!?

と、急に体を押さえつけていた力が緩められ、私は前のめりに倒れる。

暗闇の中、振り向きざま、叫ぶ。

「誰!?私をどうする気!?思いっきり悲鳴あげるわよ!!」

体格から男だとはわかるが、顔は闇に包まれ見ることができない。

突如、低く、ざわざわと舐めるような心地の悪い声が頭の中に入ってきた。

(ミラ……リアナ……ミ……コ)

何を言ってるの!?

男は低いうめき声のようなものをあげながら、ひたひたと私に近づいてくる。

「いや!来ないで!!」

火照る体。

恐怖に震える胸。

男が腕を振り上げるのが微かに見えたその瞬間、
恐怖が最高潮に達した私の周りに、蒼の光をまとった風が龍のように渦を巻き、「蒼」が全てを支配する。

「なに?……この光!!」

ふと、眩しい光に吸い寄せられるように横にあるミラーを見ると……白いローブをまとい石のベッドに寝ている女性の姿がミラーの中に映し出されていた。

若く意思の強そうな女性の姿。

長い髪に伏せられた瞳から伸びる長いまつ毛。

背は私と同じくらいで。

私に……似てる?

この女性は……。




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