ビロードの口づけ
 クルミはベッドを下りて、裸足のまま静かに窓辺へ歩み寄る。
 カーテンを少しだけよけて、恐る恐る覗いてみる。
 そこには窓に背を向けたジンが立っていた。

 驚いてカーテンを戻そうとすると、ジンがこちらを向いた。

 眼鏡をかけていない。
 琥珀色の瞳は瞳孔が大きく開いていて深い緑色に見える。

 クルミと目が合ったジンは、意地悪な笑みを浮かべた。


「随分と夜更かしなんだな、お嬢様」


 てっきり夜は休んでいるものと思っていた。
 けれど少し考えれば予測できたはずだ。

 クルミは夜、獣に襲われている。
 昼間より夜の警護に重点を置くのは当然だろう。

 おそらくジンは毎夜クルミと分かれた後、ここで警護に当たっていたのだ。
 クルミがすぐに眠っていない事は筒抜けだったようだ。
 そう思うと少しきまりが悪い。
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