ビロードの口づけ
 言うが早いか、ジンはクルミの後頭部に手を添えて引き寄せ、強引に唇を重ねた。

 容易く唇を割って侵入した舌が、生き物のように口腔内を這い回り、クルミの舌を絡め取って吸い上げる。

 ジンの舌はあの黒い獣のようにザラザラしていた。

 いきなりの濃厚な口づけに思考が麻痺していたクルミは、ハッと我に返ってジンを突き放した。


「な、何を……」


 悪びれた様子もなく、ジンはペロリと唇を舐めて恍惚と目を細めた。


「やはりあんたは極上の甘露だ」


 クルミは黙ったまま勢いよく窓を閉めてカーテンを引いた。
 怖くて身体が震える。

 糸が切れた操り人形のように、クルミはひざを折って窓辺に座り込んだ。

 クルミの事を嫌いなくせに、どうしてこんな事をするのだろう。
 考えるまでもなく答えは見えている。

 ジンの中に流れる獣の血が、力を得るために人間の女を欲しているからだ。

 分かっているのに胸の奥が熱く疼いている。
 それが何より怖かった。

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