クランベールに行ってきます
幕間

1.甘い拷問



 朝から何度目のあくびをかみ殺しただろう。結衣は窓辺に置いた椅子に座り、手の平の小鳥の頭を撫でながらぼんやりしていた。

 研究室にいろと言われ、それに従っているが、何もする事がないので退屈で仕方ない。
 最初の二日間はそれでも、物珍しさと緊張感から何とか耐えていた。だが、三日目ともなると、すっかりだれてしまっている。何か手伝う事はないかとロイドに尋ねてみたが、文字の読めない結衣に手伝える事は何もなかった。

 結衣が穴に落ちた翌日から、王宮医師のローザンが、畑違いの助手としてロイドのデータ分析を手伝いに来ている。
 二人は時々言葉を交わしながら、忙しそうに作業に追われていた。

「あ〜っもう、たいくつ〜」
「うるさいぞ、おまえ。さっきから何度も!」

 結衣がぼやくと、すかさずロイドの怒声が飛んできた。

「だって、退屈なんだもん」
「退屈がイヤなら、文字の勉強でもしろ」
「あなたが読んでる難しい文章を読めるようになるには、何年もかかるわよ。
ここの文字が読めても、日本に帰って役に立つわけでなし……」

 結衣が気怠げに反論すると、ロイドは苛々して隣に座ったローザンの背中を叩いた。

「ったく! おい、こいつに与えるおもちゃでもないのか!」

 コンピュータに向かって、データ解析を行っていたローザンは、いきなり背中を強く叩かれ、画面に頭をぶつけそうになった。

「とんだ、とばっちりです。おもちゃはロイドさんの方が得意じゃないですか」

 非難するように見上げたローザンの額を、ロイドはペチッと叩いた。

「どういう意味だ。オレは道具を使わない主義だぞ」
「そっちのおもちゃじゃ、ありません」

 男同士のエロ漫才をぼんやり眺めながら、結衣はひとつため息をついた。
 何かひとりで遊べるゲームでもあれば気も紛れるのに……と考えて、ふと閃いた。

「ねぇ、ロイド。私とゲームしない?」

 結衣の提案にロイドは眉をひそめる。

「何を言っている。オレはそんなヒマ……」
「一回だけ勝負してくれたら、後はおとなしくするわ」

 探るように見つめるロイドに、結衣はイタズラっぽく笑った。もちろん、それなりの対価は支払ってもらうつもりだ。

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