銀棺の一角獣
顔を合わせた婚約者
 毅然とすると誓ったはずなのに、与えられた部屋を出るとどうしようもなく足が震えた。


「……アルティナ様。お手を」


 赤に金と白を配した近衛騎士団の制服で身をかためたルドヴィクが手を差し出す。アルティナはその手につかまって、ようやくまっすぐに立った。
 ルドヴィクを含め、近衛騎士団の騎士たちは制服に身を包んでいても剣は吊ってはいない。武器はこの国に入った時に全て取り上げられてしまっている。


「……大丈夫……大丈夫、よ」


 アルティナは自分に言い聞かせるように繰り返した。
 幼い頃から助けてくれた腕だけれど――もう、この腕に頼るわけにはいかないのだ。


「行きましょう」


 唇を噛みしめると、ルドヴィクの腕に手を預けたまま、アルティナは長い廊下を歩き始めた。
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