新撰組のヒミツ 弐

名を知る者




十月中旬。



初旬まで茹だるような暑さだった日中は、思わず身体が震えるようになり、今のような夜中では身体の芯から寒さで凍り付く。


遂にこの日、夜中の巡察に光を参加させるという命が土方から下り、心躍る彼女はいつもにも増して気合い十分だった。


「……原田さん」


「おう、井岡。よろしく頼むぜ」


「……。よろしくお願い致します」


だが、目の前でへらっと表情を崩す男・十番隊の組長である原田左之助に、光は思わずその笑む表情に苦いものを加える。


浅葱の羽織、腰には大小。寸分違わず、光と彼は同じ格好をしていた。


上から見下ろすほどの巨体には威圧感が宿り、短気で短絡的、血気盛んな者は光の好むところではない。


──つまりは、この男が苦手なのだ。


無論、割と人間関係を上手くやっている自信がある光にも、苦手だと分類される人間も中にはいるものである。


嫌いな訳ではないのだが、論理的に判断しようとする光に対し、この男は自身の勘や雰囲気、感情論で物事を判断しているように思えるのだ。


そんな側面もあるのだが、後先を考えないような面(ツラ)をして、いつのまにか人の本質をずばりと見抜く場合もある。


普段はへらへらと軽薄なわりに、年嵩のせいなのか、意外と思慮深いこともある。


後ろから刺すという、一見卑怯な行為もやってのけそうな武士らしからぬ男だ。先の芹沢派の暗殺、そして間者粛清にも一役買っている。


油断ならないとは、まさに原田を言う。
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