巫女と王子と精霊の本

咆哮の凶兆

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窓から見える青空とは反対に私はため息をつく。


「…はぁ……」


今日で何回目かわからないのため息。


ため息をつくと幸せが逃げるっていうけど、なら私の幸せはとうに底をつきたかもしれない。


それくらい今日の私はため息をついている。



そんな私を心配してか、セレナが香を炊いたりお菓子を作ったりしてくれた。


「ありがとう、セレナ」

「いえ……」


セレナは何も聞かずにいてくれる。


いつもならセレナのお菓子や紅茶、香にはしゃぎまくる私だが、最近はそれでも私の心は晴れなかった。



「それにしても、ハミュルの花はどうして消えてしまったんでしょうね」



私を気遣ってか、セレナは話しかけてくれる。


「それは……役目を、終えたから……じゃないかな」


あの花は、ハミュルの為に咲いた花だから、もうここには咲かない。
その必要が無いんだと思う。



「役目……ですか」



セレナは不思議そう首を傾げた。


私は、音羽さんの言葉を思い出す。



『私は、ここで生きることを選んだの。あなたも…選ぶ時が来る…わ……』




私にも選ぶ時が来る………
その時、私は何を選んで、何を……手放すんだろう………



私は部屋から空を見上げる。


あーあ、晴天。
晴天の馬鹿野郎!って叫びたい。
綺麗な青空がなんだか憎らしい。



「どうして気づいちゃったんだろう…」


あの一件で気付いてしまった想い。


エルシスが好きだって…


そして……


「どうして、私は…………」


この世界の人間じゃないんだろう……
こちらの世界にも、元の世界にも未練がある。



どうして私は……どちらかを失わなくちゃいけないんだろう………






















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