ブスも精一杯毎日を生きてるんです。


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気まずい。

さっきから美桜は一言も発さず、売れ残りのクリームパンをパクついていた。

私も無言でおかずを口に運ぶ。

今日は寝坊したから冷凍食品ばかりで、何だか味気ない。

「…。」

『…。』

気まずい雰囲気の私たちとは裏腹に、食堂はいつになく盛り上がっているように感じる。

そうか、確か今日は…。

「湊人君が来た!」

「湊人君だぁ」

そういえば今日は金曜日だ。

金曜日は学年一のモテ男、水谷湊人が食堂で昼食を食べる日。

学年中の女子たちの憧れの的〝湊人君〟は金曜日に食堂に来る。

なぜかは分からないが。

そのおかげで金曜日は食堂が女子で埋め尽くされる。

幸いなことに、私はその男に興味はなかったし、

美桜は現在進行形でラブラブな彼氏がいたので、まるでアイドルのコンサートのような女子特有の熱気を帯びた集まりに参加する必要はなかった。

まあそのアイドルが自分から寄って来ない限りの話なんだけど。

「晴奈!今日の部活のメニューってさ、」

湊人が私たちのテーブルに寄って来る。

それと同時に痛いほどの視線を感じるようになった。

「何あの子?湊人君とどんな関係?」

「さぁ?でも彼女はないでしょ…顔的に。」

わざと聞こえるトーンで放たれる言葉が私の胸に突き刺さる。

あーもう聞きたくない。

『その話後でいいでしょ?』

「俺今聞きたいんだけど…」

駄々っ子のような口調の湊人に苛立ちを隠さないまま、私は湊人を睨みつけた。

『 あ と で 。』

そんな私にむっとした顔をする湊人を横目に私は立ち上がった。

『行こう、美桜。』

先ほどまでの気まずさはもはや消えていた。

今はこの状況から抜け出すのが先だ。

一日美桜とケンカするのと一週間湊人の追っかけに睨まれるのと、どちらが良いかと問われれば、

私は絶対に後を選ぶと思う。

「うん、行こっか。」

苦笑いを浮かべる美桜の手をひいて、私は大股で食堂を出た。
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