神龍と風の舞姫

過ぎ去った日々

ザザッー

草木がこすれ合い大きな音を立てる

それだけで相手にはどこにいるか、どこでどう動いたかが知れてしまう

けれど一点にとどまっているわけにはいかない

ちっ、と草木のざわめきと自分が今置かれている状況に、腹立たしげに舌打ちをする

追っては5人といったところか

後ろから聞こえるかすかな声と気配で大体の距離と人数を推測する

こういう時の自分の目測が誤っていたためしはない

にしても5人とは、ずいぶんなめられたものだ

大きな木の根を軽々と飛び越え、森の奥へと突き進む海斗は、ふと口角を釣り上げる

国を、大きな砦である神龍国を出れば、必ず自分の力を狙う輩が動き出す

わかっていたこととはいえ、こうも寝る間もないほど次々と、違う組織のものが現れるといっそすがすがしいほどだ

それほどまで自分の、この忌々しい力が欲しいか

くれるものならくれてやる

海斗を見つけて下品に笑う彼らを無感動に見つめながら何度思ったことか

投げ出せたらどんなに楽だろう

そしたら100年にも満たない短い人生を、けれど平凡に生きていける

1000年という神龍族では当たり前の寿命が、人間が羨むその長い人生が、海斗にとってはいらない時間だ
< 57 / 117 >

この作品をシェア

pagetop