竜王様のお約束
ジュウイチ
天界へと上昇する、コクリュウの手のひらの中で、リョクは胸躍らせていた。


リョクの馴染みの風景といえば、広いとはいえ、所詮閉ざされた屋敷の敷地内だ。外へさえ、ろくに出たことのなかった日々に不満は募るが、口に出せるはずもない。両親に代わり、優しくも厳しく自分をここまで育ててくれたエミに、感謝の気持ちしかないのだ。持ち前の旺盛な好奇心はしっかりと心の中に仕舞い込み、リョクは慎ましやかに暮らしてきた。


しかし、思いが叶うということの、なんと素晴らしいことであろうか。屋敷の外どころか、人間界の外へと飛び出しているのだ。


リョクは高鳴る胸を抑えて、父と母と、そして叔父の顔を思い浮かべる。


とは言うものの、わずか3歳の時に別れたきりでは、はっきりと顔やぬくもりを覚えているはずもなく、リョクにとっては写真の中で自分を囲んで微笑む、この3人の姿が記憶の全てであった。


屋敷の外へ抱くワクワクする気持ちと、久々に対面する両親への邂逅の想い・・・。


そんなリョクではあるのだが、実は、ただ脳天気に喜んでいるわけではなかった。自分を迎えに来てくれたはずのコクリュウの浮かない表情が、どうにも気になって仕方がない。


エミがリョクの天界行きを許すと、瞬く間にコクリュウはその精悍な顔に、渋い色を浮かべた。リョクにもすぐに分かるほど、それはあからさまなものだった。


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