ウェスターフィールド子爵の憂鬱な聖夜
chapter 3


 その後のことは、よく覚えていなかった。

 夢見心地に彼の腕の中で守られるように馬車にゆられ、再びキングスリーの屋敷に到着したような気がした。

 それにしても何てすてきな夢だろう。もう心配も不安もない。愛する人に大切に守られて、快い天蓋付きの寝台に横たわっている。

 まるで一年前に帰ったように。

 次には、険しい顔の医師らしき老紳士が自分を診察していた。額に置かれた冷たい布がひんやりと火照りを覚ましてくれる。


 彼はどこ?  不安になって重いまぶたをうっすら開くと、自分にかがみ込むように座っているエヴァンが見えた。

 何か話しかけながらハンカチで汗を拭ってくれている。胸が痛くなるような心配そうな声。もっとよく聞きたいのに、意識がまた遠のいていく。


 時間の感覚がなくなったようにふわふわと漂っていた。目を覚ましたくない。目覚めればこの素敵な夢はすっかりおしまいになり、自分はまた一人ぼっちで、寒いあの下宿で目を覚ますことになるのだから。

 だが、ついに夢から覚める日がやってきた。

 目を開いた時ローズは自分がまだ夢の中にいると錯覚しそうになった。

 彼女は美しいカーテンのついた、天蓋付きの豪華な寝台に横たわっていた。

 部屋の壁に飾られた肖像画、磨きあげられた調度品、まるで貴族の屋敷にいるようだ。
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