どこからどこまで

「変なのか」


 必修の授業が1コマにぶちこまれていることに、あたしはそこまで腹を立てない。早朝に家事を済ませてしまって、帰ったら翔ちゃんがつくった夕食を食べてお風呂に入って寝るだけ、という生活サイクルだ。課題とかが特になければ。

 そもそも何も考えずに教養の授業も入れちゃったから、結局今期の授業は毎日1コマからなんだよなあ。あたしが家をでる時間に合わせて翔ちゃんを叩き起こすはめになってるから申し訳なく思ってはいるけども。


「さなは今日カラオケ行く人ー?」


 昼休み。食後の3コマ目を受ければカラオケだ。

 次々に教室がかわる授業にも、さすがに6月にもなれば慣れた。右も左もわからず同じ科の友人や先輩や翔ちゃんに質問をしまくりながら履修届を書いていた4月が大昔のようだ。


「行く人だよー」


 美術科内で一番の仲良し、さこねぇにそう返事をすると途端に変な顔をされてしまった。

 なぜそんな顔をするんだ、さこねぇ。

 ちなみに本名(苗字)は左近、二浪していて翔ちゃんと同い年なおねえさまである。本人は否定するが、口癖は"二浪なめんな!"だと個人的に思っている。


「行くの?ほんとに?同じ学年の子らだけじゃなくて先輩たちも来るらしいって話だよ?しかもほとんど男」

「え、うそ、知らなかった」

「もー…誰に誘われたんだよ」

「先輩?」

「男?何年?」

「ううん、女の人。学年は…わかんない。まだ先輩の顔も名前も全然覚えられてないし」

「まあ、いいけどさ。あたしは行かないから」

「えっ、さこねぇ行かないの?」

「行かないよ、めんどくさい。どうせ行くなら今度2人で行かない?」

「行く!!」

「よし、断れ!」


 そうと決まればラインだ。美術科1年のグループ内で『ごめん、今日やっぱり行けない!』と送信する。すぐに『なんでー(´;ω;`)?』と反応があったが見なかったことにした。

 ラインなんて大学に入ってから初めて知ったしガラケーだから通知がくるのが遅くて、いまいち使いこなせていない。

 ツイッターなら高校生の頃からやっていたこともあって慣れてはいるが大学生になってからフォロワーが急に増えたせいもあって、最近なんとなくアカウントに鍵をつけた。兎も角、今まで使ったことのあるSNSの中で一番ツイッターが長続きしているのは確かだ。
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