どこからどこまで
「『なんでー?』って訊かれてるけど、いいの?」

「見なかったことにしよ」


 指をすべらせるだけで画面が動いていくさこねぇのスマートフォンを覗き込みながら買ってきたお弁当を食べる。さすがにお弁当は翔ちゃんお手製ってわけにはいかない。


「ならよかった」

「なんで"よかった"?」

「だってほら、"しょーちゃん"?過保護じゃん」


 過保護?そうかな…初めて言われた。

 さこねぇには全部話してある。隣に住んでいることも、日課のことも、翔ちゃんがあたしのいとこだってことも。


「…過保護?そうなの?」

「あたしに訊かれても」

「過保護…過保護かあ……」

「思いあたらない?例えば新歓のときのこととかさ」

「新歓…?」


 4月、新入生歓迎会という名の飲み会が行われた。あたしと違ってお酒を飲んでも合法なさこねぇは、先輩にかなり呑まされて潰れていた気がする。

 新歓…新歓か。あたし、何か翔ちゃんに"過保護"っぽいことされたっけ?


「えー?ほんとに覚えてないの?電話してたじゃん!」

「電話…?あぁ!」


 かかってきたかかってきた!飲み会の途中に!翔ちゃんから!

 それで電話にでるために外にでてたら、通話が終わった頃にさこねぇも外にでてきて少し話したんだっけ。それがきっかけで仲良くなれたんだよね。


「酔ってたのによく覚えていらっしゃる~」

「二浪なめんな!"なによー、彼氏と電話?"とか言ってウザ絡みしたんだっけ。覚えてる覚えてる」

「あはっ、でた!"二浪なめんな!"」

「まさか"いとこだよー"って言われるとは思わなかったけどね…」

「あ、確かにあのときビックリしてたね」

「そりゃ、するでしょ」


 するのか。するもんなのか。

 確かあのときの翔ちゃんとの通話の内容は何時に帰れそうとか、お酒は飲まされてないかだとか、その程度だった気がする。特別、驚かれることもないんじゃないだろうか。


「あれからまた別の日に根掘り葉掘り訊いちゃったけどさー………あ、改めてごめんね?」

「そんな。いいよー、気にしなくて」

「でさ?いとことこの年になっても大の仲良しー、ってさ、珍しすぎるって」

「えぇ~、そんなに言うほど?」

「うん、変」

「そうか、変なのか。変なの?」

「だから、あたしに訊かれても」


 変、かあ。
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