カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―
神宮寺匠(たくみ)。
彼は私が新入社員のときにお世話になった先輩。
在庫管理から営業の仕事までを教えてくれた、感謝すべき人だ。
私が一人前になった頃に支店に異動してから、個人的に連絡をとったりもしたことはなかった。
だから、またここに戻ってきたのも知らなくて驚いた。
まじまじと、神宮寺さんを懐かしむように見つめた。
神宮寺さんの手にあるのはケータイ。
それを大きなゴツイ手で操作しているのを見て答える。
「彼女に誤解されるのはゴメンですよ」
「安心しろ。今はフリーだから」
「……振られたんですね」
「相変わらずきついねー。俺が振ったっつー可能性を少しは考えないのか」
「ほぼゼロかな、と」
神宮寺さんというのは、営業だっただけに話も上手で女性にも受けがいい。
さらにルックスもいい方で男らしい体つき。
女関係にだらしないわけじゃないけど、でも来るもの拒まずな印象を受けていた気がする。
もちろん浮気なんてしてないみたいだけど。
そんな彼は自ら別れを切り出すことをしなさそうに見える。
来るものを“拒まない”のだから。
「ま、そーいうわけだから」
なぜか勝ち誇ったような物言いで神宮寺さんは、手にあるケータイの画面を上向きにして突き出す。
……まぁ、別にいまさら警戒する間柄でもないか。
神宮寺さんて、言い寄られる側で、言い寄ってるって聞いたことも見たこともないし。
大体こんな30も越えて、性格に可愛げのない私みたいな後輩になんかあるかも、なんて考えるのバカみたい。時間のムダムダ。
「これ。番号は個人のですから」
私は手慣れた感じで名刺を差し出すと、神宮寺さんは目を丸くしたあとに、笑って「サンキュ」と受け取った。
じっと私の名刺を真剣な顔して見て、顔を上げた神宮司さんが口を開く。
「やっぱり今日にしよ」
「……?」
突然椅子から立ち上がりながら神宮寺さんが言ったことが理解出来ない。
私が見上げると、蛍光灯を背負った彼が言う。
「それ、待ってるから飲みに行こう」