②灰川心霊相談所~『闇行四肢』~
『発端』
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「……興味深い話です」
黒髪のワカメ頭をぼりぼりとかきながら、ゆっくりとこちらを振り向く。
皺の目立つワイシャツに、黒いジーンズ。いつもの代わり映えしない服装だ。この猛暑の中でさえ、一度も日光を浴びたことのないかのような青白い肌に、眠たそうな気だるい眼差し。
……そんな顔で言われても本当に興味があるのか疑ってしまう。
「それだけ伝えると、消えてしまったんです。……なにかを伝えるなら、普通、もっと具体的な話をしませんか?」
私は昨日の事が気になって仕方なかったので、翌日事務所にこの事を相談に来ていた。
「……彼らの話せる言葉にはいくらか『制約』があるんですよ」
「『制約』ですか。――あ、たしかにそんなこと言ってました」
「この世の理に逆らう存在だから、普通は行動をこの世界の法則そのものに縛られることになる。それはその個体の『行動理由』の強さによってだいぶ異なってきますが。今回は夕浬さんにその『箪笥』とやらの警告をすることで精一杯だったのでしょう。あるいは、『他の』ルールに縛られてそれしかできなかったか……」
「『他のルール』ってなんですか……?」
「さてね。そこまではわかりませんよ。だいたい、見ず知らずの亡霊の遺言なんて僕の知るところじゃないです」
――灰川倫介。
私の勤める『灰川心霊相談所』の所長(?)で、私の恩人である。絶望の淵にいた私を救ってくれた人なのだが……人格に問題があるのが玉にキズ――いや亀裂か。
この業界の裏ではそれなりに名の通った人物で、実際に知識も考察力も一流である。いままで解決できなかった事件はないらしく、たしかに私がここで働き出してからもその仕事ぶりは圧巻の一言だった。この人には、霊の心理が全てお見通しなのだろう。
ただし、この人のスタイルはかなり独特で、通常の霊媒師とは一線を画している。
というのも、そもそもこの人には――。