【完】白衣とお菓子といたずらと
やる時はやります
俺が思っていた以上にしっかりしているらしい小川さんに、分かりやすいところまで迎えに行くと言った俺の申し出はあっさりと断られた。


松葉杖歩行の俺にそんな事をさせるわけにはいかないんだそうで。


だから、住所と部屋番号だけ教えて欲しいという連絡が来た。


こういう時に使うのが、文明の利器だそう。要するに、携帯の地図アプリがあれば、なんの問題もないらしい。


女の子って、そういう地図を見て移動とかは苦手かと思っていた。実は男の癖に俺が苦手なのだ。小川さんは俺よりその辺りはしっかりしているようだ。


「確かにこれじゃな」


部屋に置いている松葉杖とまだ完全ではない自分の足を見ながら、苦笑とため息が零れた。


今は学会が終わってこちらに向かっている小川さんを、大人しく自宅で待っているところ。


いくら独り言を言っても、今は誰もいないんだから構う事はない。


心がそわそわしていても、この足ではうろうろとする事も出来ないし、たった一人の部屋では特にすることもない。


テレビをつけても、全く内容が頭に入ってこない始末だ。


何もすることがなく、緊張感だけが高まっていく。


「……なんでこんなにも時間が経たないんだ」


なかなか進んでくれない時計の針を見つめながら、また独り言。


あー、来るなら来るで、早くしてくれ。


緊張して俺の心臓がやばい。

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