好き嫌い。

その3

振り向かずに立ち止まる。


「何?」


もうすぐ卒業する。
そしたらもう会わない。県外に出るし、地元に帰ることはないだろう。


だから、もう。

さよなら、なんだよ。こうちゃん。


「なんでそんな態度なんだよ。」

「別にあたしがどんな態度でも、奥井君には関係ないでしょ。」


「あるよ。なんかムカつく。」


近寄ってくる彼の体温を感じる。
実里より首一つ大きい康太。
あの日、掴まれた腕がジンジンする。


「好きだって言っただろ、あん時。」


「…もう随分前だもん。気持ちは変わるから。離して。」



ぎゅう、っと後ろから抱きしめられて声が震える。

「じゃあなんでこんなにドキドキしてんだよ。」


「…めっ、免疫ないから仕方ないじゃん!」


くくくっ、と笑う康太の声に胸がキュンとする。


「ちいさいな、ミノリ。こんな小さい手であんな凄いことすんだなぁ。」


…凄いこと?

あぁ、ピアノか。


「あんたのピアノ、聞くの好きだった。
イメージが湧いてきていい写真が撮れるから…」


ピアノが、なんだね。
ピアノが好きなんであって、あたしは付録。


「卒業したら、どうすんの?」

「奥井君には関係ないよ。」

そっけなく答えるので精一杯だ。


< 19 / 83 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop