「あれ。ひょっとして泰菜ちゃん?」


カウンターの中では昔と変わらず、店主である法資の父親が景気のいい笑顔を浮かべて立っていた。濃紺の作務衣できびきび動き回る姿が、今も昔も見ていて気持ちよくなる。


「おじさんこんばんわ。ご無沙汰しています」
「随分久し振りだね、いつ帰ってきたの?すっかり綺麗になっちゃったなぁ」


酔いの回ったお客のおじさんに「大将、この別嬪さんは誰だ」と訊かれて法資の父が答えた。


「何言ってんだよ、ほら相原さんとこのお嬢さんだよ。うちの法資と同級生だった」
「ああ、相原のとこの娘さんか」
「泰菜ちゃんかぁ、いやすっかり垢抜けたねぇ、爪も服もそんなにおしゃれにしちゃってて。デートか?」

「いえ、今日と明日、こっちで高校時代の友人と会う約束があって」



今晩は高校のときいちばん仲の良かった美玲と会う予定だったから、多少身なりには気を遣ってきた。


カジュアルだけど程良く品のあるモノトーンのワンピースにお気に入りのネックレス、足元は頑張り過ぎない歩き易さ重視の太ヒールのブーティー、バッグだけはさりげなくブランドのものにしてきた。メイクはやや控えめに、爪先だけは特に念入りに整えておいた。

美玲は高校のとき仲良くしていたグループの中でもいちばんおしゃれだった子で、地元で結婚していまや二児の母親だけど、いつ会っても子育ての苦労を感じさせないきれいな装いをしていた。

普段はスカートなんて滅多に穿かなくなったけれど、今日は本当なら美玲と遊ぶ予定だったからほんのすこしだけいつもよりきれいめな格好をしていた。




「泰菜ちゃん、こんな田舎じゃお目にかかれない美人さんになったねぇ」
「さすが都内に勤めてるOLさんはお洒落で違うなぁ」


お酒の入ったおじさんたちのむやみなお世辞に思わず苦笑いしてしまう。


「いえ、わたし今勤め、都内じゃなくて静岡なんですよ。ここよりもっともっと田舎で働いてます」
「んあ?そうだっけか?けど泰菜ちゃん、確かいいとこ勤めてんだろ?親父さんに聞いてるぞ。えっと確か……」

「トミタだよ、トミタ。なあ法資?」


なぜか大将が法資に訊く。法資が自分の勤め先なんて知るわけもないのに。