たとえ、これが恋だとしても~あなたとSweet sweets~
たとえ、これが恋だとしても
何もない真っ白な空間。あたりには眩しいくらいに光が溢れている。そんな空間に亜紀はボンヤリと立ち尽くしていた。

いや、このままでいいと彼女は思っていない。だが、まるで足がその場に縫い付けられたかのように動くことができない。

周囲は眩しく、白い色しか目に入ってこない。ここはどこなのだろう。どうして、ここにいるのだろう。そんな思いが亜紀の中には膨らんでくるのだが、答えをくれる相手がその場にはいない。

そのことに不安を覚えるのだが、動くことができない。そんな時、彼女の耳に微かな声が聞こえてくる。



「あーちゃん、こっちだよ。早く、こっちにおいで。あーちゃんのこと、ちゃんと待ってるからね。だから、何も心配しないでいいんだよ」



扉も窓もない空間から声が聞こえてくるはずがない。それでも、間違いなく亜紀の耳には声が届いている。今にも消え入りそうな小さな声だが、彼女がその声を聞き逃すはずがない。

だが、それが素直には信じられないのだろう。感極まったように手を口元にやり、しゃがみ込んでしまう亜紀。その口からは微かにその相手を呼ぶ声が紡がれる。



「…………」



次の瞬間、彼女は同じ白い空間でも別の場所にいる自分に気がついていた。先ほどまでの場所は真っ白な四角い空間。だが、今の場所は違う。

微かに風が入ってくるのか白いカーテンの裾が揺れている。チクリと痛みを感じる腕には細い管が繋がれ、無機質な機械音がきこえてくる。消毒薬の臭いとパタパタという乾いた足音。
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