マリー
第七章 混じる黒髪
 知美がここにきて、一か月以上が経過した。夏休みも目前に迫っていた。

 太陽の日差しも強くなり、空気もからっとする。

 ここにきて初めての夏休みだった。

 今までの夏休みは友達の親がプールや映画館に連れて行ってくれた。

 今年の夏休みはどうなるか想像もつかない。

 友人に送った手紙の返事は戻ってこず、友情の切れ目は意外と脆いのだと知った。

「どうかした?」

 黒目がちな目に顔を覗き込まれ、知美は笑みを浮かべる。

「何でもないよ。ぼうっとしていたの」

「元気ならいいんだよ。今度、買い物行かない? 知美が前住んでいたところに行ってみたいの」

「いいよ。でも、子供だけで大丈夫かな」

「大丈夫だよ。電車乗ればすぐだもん」

 彼女がそういうならと知美も次の日曜日に一緒に出かけることになった。

 もっとも伯父夫妻の許可を取れたらという前提条件付きだ。

 あの街を出たのは雨の滴り落ちる梅雨の時期。

 意外に長い時間が経っているのだと気づかされる。

「真美と買い物に行きたいの」

 知美は自分が住んでいた街に行きたいと夕食が食べ終わった後、将と伊代に伝えた。

「子供だけで大丈夫かしら。車で送るわよ」

「ありがとう。でも、真美は電車に乗るのも楽しみみたいだから、大丈夫だよ」

 真美自身、親と一緒に買い物で知美の住んでいる街に足を踏み入れたことが何度かあったらしく、電車に乗った事は数えきれない程あると言っていた。基本的に駅で降りればいいし、構内であれば駅員に聞けば教えてくれる。だから、心配する必要はないと思ったのだ。
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