婚約者から逃げ切るだけの簡単なお仕事です。

【回想をしていました】





ウキウキしながら迎えた入学式は、

カイロを持っていないとちょっと寒いくらいの気温だった。


まだ冬の面影を残す澄み切った空気に首を縮めつつ、

白い息を吐き出した私は玄関の鏡の前に立つ。



『んー、……よし!今日は寝癖も直したし!』



くせっ毛のせいでいつも寝癖がつく髪をいじりつつ、

とりあえず満足した私は鏡を見ながら一つ頷く。


そのまま、他に変なところはないかと全身をチェックしていたその時、

家の奥から自分の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。


履きなれていないローファーに足を突っ込みつつ

そちらへ視線を向ければ、そこには焦った顔のお母さん。


余所行きの服を着て、いつも以上に化粧をバッチリきめているのが遠目に見ても分かる。



< 48 / 123 >

この作品をシェア

pagetop