ラストバージン
恭子は、すやすやと眠ってしまった恭平君をゆりかごに寝かせ、息を小さく吐いた。


「あの頃の事が引っ掛かってるんでしょ?」


椅子に腰掛けた彼女が、頬杖を付いて微苦笑を零す。
やっぱり何もかもお見通しな恭子に同じような表情を返し、そのまま何も言えずに彼女から視線を逸らした。


「あの時の事は、葵だけが悪い訳じゃないと思うけど……。葵の事だから、責任を感じているんじゃない?」

「責任かどうかはわからないし、偽善だと思われるかもしれないけど……。他人の人生を壊した私が、誰かと幸せになるなんて……って思う気持ちはある」


何とか恭子を真っ直ぐ見ると、彼女は困ったような表情をしていた。


「でも、それって結局は責任を感じているからでしょ?」

「責任って言うか……。だって、どうしたって償い切れないじゃない……」


私の言葉に、恭子は眉を小さく寄せたまま微笑んだ。


「でも、葵は最初から相手の事情を知っていたら、付き合ったりはしなかったよね? 相手の事をどんなに好きだったとしても、葵は本能だけで行動出来るタイプじゃないでしょ?」


その言葉に頷く事が出来なかったのは、それが結果論だからで、同時に綺麗事のようにも思えたからだった――。

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