ラストバージン
「この間チラッと話してた、教師をしてる人の事?」


ゆっくりと切り出した恭子に目を小さく見開くと、彼女は「当たりだね」と満足げに微笑んだ。


「彼と何かあった?」


優しげな瞳を向けられて、恭子に聞いて欲しいという思いが込み上げて来る。
〝あの頃〟とよく似た表情に今は母性が加わったせいか、とても素直に縋り付きたくなった。


「……告白、された」

「そう」


予想通りだと言わんばかりの顔をした恭子は、ゆりかごのように体を小さく揺らしながら微笑んでいる。


「それで? 何を迷ってるの?」

「それは……」

「だって、葵もその彼の事が好きなんでしょ?」


瞳をパチクリとさせた私に、恭子がクスッと笑う。


「顔に書いてあるよ」

「……恭子は何でもお見通しだね」

「葵がわかり易いだけでしょ」

「そう、なのかな……?」

「他の人から見ればどうなのかは知らないけど、少なくとも私にはそう思えるよ。悩んでる時の葵は特にわかり易い」


ニッコリと笑顔を見せる恭子を前に、きっと私の事をそこまでわかっているのは彼女と菜摘だけだと心の中で呟き、グラスに半分程になった甘めのアイスティーを一口飲んだ。

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