ジキルとハイドな彼
彼の胸の内
沖本薫(29) 独身
現在MCカードに勤務
東京都世田谷区春日町在住

ホワイトボードに黒い文字で書かれ、隣にマグネットで止めた写真が張り出されていた。

お気楽そうな笑顔が何故か二つ上の姉を思い出させる。また同じ業種というところが尚更。

「いい女っすね」

隣に座る小鳥遊がボソっと呟く。

確かに黒く長い髪に切れ長の瞳が印象的な和風美人だ。

しかし、馬鹿そうにみえるのは何故だろう。

それもきっと天真爛漫な姉に似ているからだ、と俺は結論づけた。

沖本薫は某麻薬密輸ルートの大卸元である富永聡の女らしい。

中卸への仲介に彼女が関わっている疑いがあって今回捜査対象に上がった。

彼女を追跡し富永と中卸を繋ぐ物的証拠を掴み、供述を引き出すのが俺と小鳥遊に課せられたミッションだった。


早速、沖本薫の同行を探る。

俺と小鳥遊はMCカード本社ビルの向かいにあるコーヒーショップで仕事終わりの沖本薫を待ち伏せた。

窓際のカウンター席からMCカードのエントランスがよくみえる。

「現在MCカードの開発推進部に所属。職位は主任。過去には営業実績が買われ社長賞で表彰されたらしいっす」

小鳥遊は手元資料にある沖本薫の略歴を読み上げる。

能天気そうに見えても意外と仕事はやり手のようだ。

出来る女、沖本薫が会社から姿を現したのは21:00を過ぎた頃だった。

細身の身体にキャメルのトレンチコートを纏い、華やかな大柄の黄色ショールを首元に巻いている。

黒いロングヘアーがビル風に煽られサラリと靡いていた。
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