僕と、君と、鉄屑と。

(2)

 直輝が帰ってきたのは、朝の六時だった。
「おかえり」
「ごめん、起こしたか?」
「もう、起きる時間だから。コーヒーでも、淹れようか?」
「いや、車で缶コーヒー、飲んだんだ。眠かったから」
直輝はいつものように、優しく笑って、僕を抱きしめた。その体からは、この風呂場にはない、ボディソープの匂いがした。
「祐輔……ごめん」
どうしたんだろう。いつもの、直輝じゃないみたいだ。いつものように優しいけど、なんだか……
「どうかしたの?」
「抱けなかった」
「……そう」
「着替えてくる」
そう言って、彼は部屋へ着替えに行った。

 告白すると、僕は、一睡もしていない。寝ずに待っていた、というより、眠れなかった。もちろん、毎晩、彼は僕の隣で眠っているわけじゃない。仕事でいない時もあるし、ゴルフや旅行の時もあるし、……誰かと、一緒の時もある。

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