……っぽい。
俺が言うまで恋しないでください
*
その日私は、生まれて初めて人を叩いた。
「真人はそこまで最低じゃないよ!」
「そうやって無条件に他人を信じるから、自分の部屋をホテル代わりに使われるんですよ!」
「~~~~っ!!」
バチンと鈍い音が、笠松の部屋に響き渡る。
笠松が私を“世話焼きで都合のいい遊び相手”だなんて言うから、どうしても我慢ならなかった。
帰りの道すがらにスーパーに寄り、食材とお酒類を購入した笠松と私は、部屋に戻ると、笠松がワイシャツ姿でお酒のおつまみを作る間、私は部屋着のゆるやかTシャツとダボダボズボンへと着替を済ませ、メイクも落とした。
無事に鍵の奪還を終えた祝勝会でも開くのかと思っていれば、しかし笠松の様子は全然晴れやかではなく、むしろちょっと怒っている。
いや、結構……だいぶ……かなり怒っている。
それでも笠松が作ってくれたおつまみは体に優しい野菜中心のメニューで、中でも、半月切りにしたトマトの間にモッツアレラチーズを挟んで綺麗にお皿に並べ、オリーブオイルとハーブソルトを軽くかけたなんちゃらという名前のメニューは、ワインにとてもよく合う。
一通りおつまみが出来上がると、笠松も私の向かいに座り、自分でグラスにワインを注ぐ。