僕の星

青い腕時計

 カフェを出た後、里奈は混み合うコンコースを、人の流れに逆らわず歩いた。
 流れ着いた先は、改札口の前。

「帰ろう……」

 独りごちながら、顔を上げた。
 ふと、旅行会社の窓に掲示されたポスターに目が留まる。

 緑豊かな山と川。鵜飼、金華山、岐阜城……
 岐阜市の観光地を紹介するポスターだった。

(学習合宿は岐阜市で……か)

 名古屋からさほど遠くない場所だ。
 財布の中身を見ると、千円札が3枚と小銭がいくらか入っている。
 里奈は切符売り場で岐阜行きのチケットを買った。財布をバッグに戻そうとして、内側のポケットにオレンジ色のお守り袋があるのに気が付く。

 クスッと、一人笑いをもらす。

 佐久間進太のことを言えない。里奈も相当こだわっている。

 合宿の場所を聞いたわけでもない。『滝口君』が参加しているかどうかも分からない。それでも、行ってみようと考えたのだ。

 自宅とは反対方向の岐阜に向かった。名古屋駅から快速で約20分。

「いいよね、どうせ暇だし」

 里奈は自分を説得するようにつぶやいた。

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