日常に、ほんの少しの恋を添えて

最終日だというのに

 
「ええっ、これ長谷川さんが作ったの⁉」

 翌朝。出社するなり先に来ていた花島さんに、昨夜作ったガトーショコラ(ホール)を差し出した。するといきなり私からケーキを贈呈された彼女は、元々大きい目をさらに大きくする。

「いやあの……なんか眠気が来なくて暇だったんで……作りました」
「えええ、寝てないの?? それはともかくガトーショコラ、超美味しそうなんですけど!」
「もしよかったら休憩時間に召し上がってください。私はいらないので……」
「ほんとに―!! ありがとう長谷川さん。あとで皆に行き渡るように切り分けるわね」

 ガトーショコラが入った箱を持って、いそいそとミニキッチンに向かう花島さん。そんな彼女のいつも通りの態度が、ちょっとだけ今の私にはありがたい。

 今日で専務とお別れなんだ。

 そのことを考えるだけで、仕事中なんだから控えるべきなのに、気付けばため息が零れてしまう。でも最後だからこそ、しっかりと専務の秘書として務めを全うしなければ。じゃないとダメな秘書だったっていう印象しか残らないしね……

 通常通り専務のいる部屋をノックすると、はい、という声が聞こえドアを開ける。

「おはよう」

 私が挨拶をするより先に、専務が声をかけてきた。
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