日常に、ほんの少しの恋を添えて
「おはようございます。専務、本日最終日ですね。どうぞよろしくお願いいたします!」

 いつもより気合を入れて挨拶をすると、席に着いている専務が私を見てプッと噴き出す。

「なんだよ、今日えらく気合入ってんな。最終日だからって特に気負わず、いつも通りでいいんだよ」
「さ、最後なので、いいんです。気合入れさせてください」
「よくわかんねえ奴だな」

 ま、いいけど。と言って専務が頬杖をつきながら、私を見て微笑む。

 専務ったら笑ってるよ。人の気も知らないで……

 こうやって朝専務と顔を合わせるのも今日が最後。気合入れて気を張ってないと、泣きそうになっちゃうからじゃない。

 私は軽く深呼吸をしてから、ひととおり本日の予定を確認して役員室を出た。

 最終日ともあり朝から専務は忙しい。各部署に挨拶をしに行くと、ついつい話し込んで予定時間をオーバーし、慌てて移動。を繰り返すから自然と時間が押してしまう。
 そして役員室に戻り、ほんの少し残っていたデスクワークをこなす。
 
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