スーツを着た悪魔【完結】
それにちょっとだけ――まゆが着飾ればどうなるか興味がある。
深青の「用意してやろうか」というのは、そんな気持ちから出た言葉だった。
ほんの少しの沈黙のあと。
「けっこうです」
まゆが低い声で答える。
「――?」
声色の変化を不思議に思い振り返る深青。
するとジッと自分を見据える彼女と目が合った。
深青の目の前に、いつもの怯えたウサギのような、オドオドしたまゆはもういない。
唇は硬く引き結ばれている。黒い瞳は怒りからか、涙でうっすらと潤んでいる。
そしてその瞳は、批難するように真っ直ぐに深青に向けられていた。
「――レストランに行けるような服も持ってないって思ってるんですね」
「……」
「恵んでいただかなくて、結構です」
しまったと思った深青だが、もう遅い。
まゆはその黒い瞳を潤ませたまま、くるりと踵を返し、自分のデスクへと戻る。
カツカツと響くかかとの音だけが、寒々しく事務所に響くだけだった。