スイートホーム
「い、今ね、管理人室に、あなたを訪ねてお客さんが見えてるんだけど」


「え?私にですか?」


「うん。柳田さんていう男の人なんだけど、知ってる?」


一瞬、またもや梨華が押し掛けて来たのかと思ってギョッとしたのだけれど、文子さんの言葉はその予想の遥か上を行くもので、更に度肝を抜かれた。


「し、知ってはいますけど、でも……」


私の現住所を、何故彼が把握しているの?


そして今日は水曜日で、現在の時刻は午前10時半。


ビジネスマンにとってはバリバリ就業時間内じゃないの。


しかも優さんの業務には外回りなんてものはないのだから、普通だったら会社から何駅も離れたこの場所に、この時間帯に来られる訳がない。


という事は、わざわざ休みを取って私に会いに来た…?


いや、他に有給を取るべき用事があって、ここに来たのはあくまでもそのついでなのかもしれないけれど。


とにかく貴重な休日のうちの数時間を私に費やしているのは確かな訳で…。


「そう。知り合いであることは間違いないのね…」


自分の世界に入り込んでいた私は、その意味ありげな呟きにハッと我に返った。


発言者である文子さんは右手を頬に当て、何とも微妙な表情で私を見つめている。


「え、っと…。どうか、しましたか?」


「う~ん…」


そう唸ったきり、文子さんは無言になってしまった。
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