スイートホーム
エントランスに差し掛かる前の通路で、自動ドアのガラス越しに彼の姿を確認した。


一目見た瞬間、愕然とする。


あらかじめ正体を知っていて目にしたから認識できたけれど、人混みの中偶然、遭遇していたとしたら、気付かずにすれ違っていたかもしれない。


数ヶ月ぶりに再会した彼の風貌は、驚く程様変わりしていた。


「あ、彩希…」


そして私に向けて発せられたそのあまりにも覇気の無い、弱々しい声音にもギョッとさせられる。


一応、外出するにあたって体裁は整えておこうと思ったのか、グレーのスーツ姿ではあったけれど、ノーネクタイで上下ともシワが寄りまくり。


無精髭を生やし、いつもきっちりとセットされていた髪はボサボサだった。


そしてそれよりも何よりも、どんよりと暗く陰った目元が明らかに異様な雰囲気を放っている。


「久しぶりだなぁ…」


言いながら、優さんは一歩こちらに歩み寄ったけれど、私は思わずその距離分後退りしてしまった。


「そ、外に行こうか」


私の動作に眉を潜め、ますます陰気な表情になった優さんに慌てて言葉を繰り出す。


「わざわざ来てくれたって事は、何か話があるんでしょ?私も言っておきたい事があるから」


「…分かった」


「上着取って来るから、ちょっと待っててね」


そう言い残し、私は足早に自室へと引き返した。


「彩希ちゃん!」
< 154 / 290 >

この作品をシェア

pagetop