スイートホーム
「まぁそれは、他の理解のある友人達が事前に気付いて阻止したらしいんだけど」


「警察には相談しなかったんでしょうか?」


「最寄りの警察署には行ったみたいだけどな。でも…」


加賀屋さんはさらに眉間にシワを寄せた。


「若い女性だけで連れ立って行ったのがまずかったのか、『学生同士の恋愛ごっこの仲裁をするほど警察は暇じゃない』『君が先に思わせ振りな態度を取ったんじゃないのか?』というような意味合いの事を、苦笑混じりで言われたらしい」


「なっ…」


「それを聞いた親父さんが『警察なんか二度と頼ったりするか!』ってブチ切れて、相談はそれ一回で終了してしまったんだ。それからは友人や家族が交替で美鈴さんに付き添い、男からの接触を完全にブロックした」


「それしか方法はなかったんですもんね」


でも…。


「すると、あれだけしつこかった男のつきまといはある日ピタリと止んだんだ。それで美鈴さん本人はもちろん、周りも気を抜いてしまった。『相手もやっと分かってくれた。これでもう大丈夫だろう』と」


もちろん、それで一件落着という訳ではなかった。


結末を知っている私には、それは嵐の前の静けさだったという事が手に取るように分かる。


「「ストーカー」という言葉自体は、多分その時すでに存在はしていたと思うんだ。でも、まだまだ広く世間に浸透してはいなかった」
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