スイートホーム
しかしそれをじっくり観察する間もなく、再び踵を返した彼女は、今度こそ足早に建物を出て行ってしまった。


その姿を見送りながら、『ああ、これでとうとう終わったな』と私はしみじみ思う。


おそらくそれが、私と梨華の、真の意味での決別の瞬間だったから。


残された私達はすぐには言葉を発せず、しばしその場は静寂に包まれた。


「…あの子、帰ったの?」


すると少し経ってから、こちらの気配を窺っていたらしい旦那さんが、小窓から遠慮がちに声をかけて来る。


「あっ。すみませんでした田所さん。もう帰りました」


ハッと我に返った私は慌てて返答した。


「私のプライベートな事情で、お仕事の邪魔をしてしまって本当に申し訳ないです…」


「いやいや、ちょうど奥でやっておかなくちゃいけない事があったんだ。邪魔だなんて思ってないよ。あ。もちろん、会話に聞き耳立てたりしてなかったから、そこは安心してね」


私を気遣うように優しい笑顔を浮かべてから、旦那さんは続けた。


「それより、守家さんにはそろそろ仕事に戻ってもらわないと。昼メシが遅れたりしたら俺も含めて皆すごくがっかりしちゃうよ」


「あ、い、いけない!」


私はさらに慌てふためく。


そうだ。

すっかり忘れていた。

私には重要な任務が待ち構えていたというのに。


「えっと、それじゃ、私仕事に戻りますね。志希はどうするの?帰る?」
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