スイートホーム
いや、もしかしたらそもそも、始まってさえいないのかもしれない。


小太刀さんの中で私との数々のエピソードは日常生活の中の些末な出来事として処理され、それについて、アクションを起こす必要性など微塵も感じていないかもしれない。


そう考えたら、とんでもなく暗く、悲しい気持ちになって来た。


気を抜くと涙も溢れて来そうだ。


やっぱり、幼少期から染み付いているこのネガティブ思考を、そんなすぐに改善する事なんかできないよ、志希…。


私は自分でも陰鬱だなと自覚できるため息をつきつつ、胸中で我が弟に弱音を吐く。


そんなナーバスな気持ちを抱えたまま、どうにかこうにか業務をこなし、数日経ったある日のこと。


小太刀さんへの恋心はこのままフェードアウトしてしまう可能性大という予想に反し、私にとって、人生最大となるターニングポイントが訪れた。


「あ、守家さん!片付け終わったら、ちょっとこっちに来てもらっても良いっスか?」


夕食後、厨房で作業している私に向けて、食堂の方からカウンター越しに相川さんが声をかけて来た。


視線を向けると、テレビ前のテーブルに彼と加賀屋さん、そして小太刀さんの姿もあり、『三人が私に一体何の用事なんだろう』という戸惑いと、『ああ、それはさておきやっぱり小太刀さんはカッコいい』というトキメキがまぜこぜになった感情が沸き起こる。
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