スイートホーム
「そ、そういうことで、良いんですよね?」


情けなくも、声が震えてしまった。


しかもか細く可憐な感じではなく、お笑い芸人さんがコントの際に演じるお婆さんのような響きになってしまって、何とも残念無念。


だけど、ここぞという時の自分のずっこけっぷりを嘆いている場合じゃない。


ここで落ち込んでいる暇なんかありはしない。


「私の、勘違いでは、ないんですよね?」


「今の話の流れで何をどう勘違いできるっていうんだ?」


小太刀さんは呆れたような口調で問い返して来た。


「勘弁してくれ。これ以上は、どうしたら良いのか俺には分からない」


これまためったに聞く事はないであろう彼の弱音に、私は思わず破顔した。


伝える能力が著しく欠落しているらしい小太刀さんと、察する能力が壊滅的に低い私。


そんな二人が、よくぞここまでたどり着けたと思う。


「いつから、ですか?」


背中越しに響く彼の低音ボイスにうっとりしながら、自分でも、深く考えずに問いかけていた。


「小太刀さんのその気持ちが始まったのは…」


「いつから?」


しかし、夢見心地だった私は、彼の冷静沈着に放たれた一言によって一気に現実に引き戻された。


「何月何日、何時何分からの思いかなんて、覚えていないし答えられる訳がない」


「あ、や、それは確かにそうなんですけどね…」
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