スイートホーム
驚いていらっしゃるんでしょうか?


「……参ったな…」


小太刀さんは私から視線を逸らすと、その言葉通り、心底困惑しているような口調と表情で呟いた。


「人に何かを伝える能力が欠落しているのは自分自身充分自覚しているが、いくら何でもこれは…」


「え?え?」


小太刀さんは短く『ふ、』とため息を吐いたあと、突然、スックと立ち上がった。


「とにかく、俺も忘れるつもりはない」


再び私を見つめながら、どこか開き直った感のある声音で宣言する。


「とても忘れられそうにない。一生胸に残る、残しておきたいと思える、大切な記憶だから。あんたからの、あの時の告白は」


「……え?」


「俺は守家彩希の過去も未来も、そして今現在も、どうしたって、気になってしまうから」


その瞬間、霧の迷宮をさ迷っていた私の目の前は突然、明るく大きく開けた。


あ………。


「だから俺のこの心も、自由でいさせてもらおうと思っている」


それまで、思考が追い付かず、ただの羅列として受け止めていた小太刀さんの言葉の数々が、整然と並べられ意味を成して、私の心を直撃する。


その衝撃に突き動かされるように、私も勢い良く立ち上がった。


派手な音を立てて椅子がひっくり返ってしまったけれど、そんな事は気にせず、すでに数歩歩き出していた小太刀さんに駆け寄り、必死に背中から抱き付く。
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