臆病者のシーソーゲーム(仮)
暫く歩くと見えてくる集合住宅。
数個並ぶマンションの一つに迷わず進む悠に、
遅れを取らないように進む。
4階建てらしいそれの2階。
学校の階段の様に続く階段から脱線して通路を進めば見えてくる扉。
表札には『須藤』と書かれていて、
それが悠の家だと知る。
ポケットから鍵を出した悠は、
鍵穴にそれを入れるとカチャっと音をさせて解除する。
慣れた手つきで鍵を外してドアを開ければ、
自分が先に入ってから『どーぞ』と私を招く。
私は悠に聞こえない程度で息を大きく吸って、
悠の後に続いて中に入った。
「鍵閉めといて。
俺の部屋ここだから」
一足先に靴を脱いだ悠は、
廊下を歩いて自分の部屋の前のドアをコンっと軽く叩く。
私の住んでいる一軒家よりも小さい玄関は、
傘が数本と靴箱に入れられていないままのサンダルが2つ。
多分、母親と悠の2人の物。
悠は、父親が出て行ってからこのマンションに越したと言っていた。
その言葉通り、この家には大人の男の人の物とわかる物が無い。